K:さて、需要はなさそうだけど第三回だよ。
A:完っ全に自己満足ですね。
K:まぁ、やりたいようにやらせるといいよ。
さて、今回は「伊四〇〇」型潜水艦。またの名を、「潜水空母」!
A:潜水空母!?
…………
<<散弾ミサイルの発射を確認!>>
<<ウォードッグ、君達を狙っている!>>
<<高度5000フィート以上に上がれ!>>
K:シンファクシはともかくリムファクシはなかなか手ごわい相手だったね。
ただでさえ耐久力高いのに潜航するわ対空兵装は充実してるわで、急降下爆撃はちょっと辛いものがあるね。
A:あの面に到達するまでに入手できるLASM(対艦ミサイル)持ちの機体はF/A-18Cぐらいですしね!
でもLASM連発すれば楽に仕留められますよ?
K:いや、やっぱりA-6Eの急降下爆撃……っと、脱線しちゃったね。
今回説明する潜水艦は、マジで飛行機を搭載していたんだ。
A:や、やっぱり海の中からバシュッって発艦するんですか!?
ゆ、夢が広がりんぐ!!
K:ちょ、パイロット殺す気かい?
飛行機はちゃんと浮上してから射出するよ。
A:ちぇーっ。
K:まず、日本海軍において潜水艦はどのような役割を果たさなければならなかったのか説明しようか。
日本海軍の基本戦略、それは「漸減作戦(ぜんげんさくせん)」
A:前回の「伊勢」の時にチラッと出てきましたね。
K:前回、「漸減作戦を理解しないことには日本海軍の戦略は理解できない」って話したよね。
じゃあ、その詳細を説明しようか。
○漸減作戦
数じゃ全く勝ち目のない仮想敵のアメリカを相手にして、どうにか勝利を収めるために立案された計画。
アメリカを迎撃。こちらの主力戦艦部隊が接敵する前に駆逐艦や巡洋艦などの補助艦、潜水艦部隊、
そして陸上の基地から発進する陸上攻撃機などによる雷撃・爆撃で敵の主力を削る。
その後、数では劣るものの非常に強力な日本の戦艦部隊が突撃、勝利を収めるといったもの。
A:んーと、要は「こっちの主力が攻撃する前に相手の主力を削る」って作戦ですか?
K:そういうこと。
強力な「酸素魚雷」や陸上でしか扱えない大型の攻撃機なんかは削りのために。
最大最強の戦艦「大和」は決戦のために。別にノリで作ってた訳じゃないんだよ?
大和建造を批判する人も多いけど、漸減作戦遂行のためには必要だったんだ。
それに、飛行機が主力になるなんか、殆どの国は予想していなかったんだし。ノリで批判するのは褒められたことじゃないね。
物事を批判するには、物事に対する正しい理解が必要だってことをわかって欲しいな。
A:酸素魚雷?
K:酸素を燃焼させて動力を得る魚雷のこと。ちなみに、他の海軍が使用していた魚雷は空気を燃焼させていたんだ。
従来の魚雷に比べて格段に速力・航続距離・破壊力が高い。しかも燃焼のときに発生する二酸化炭素は水に溶けやすいから、
魚雷の軌跡を見破りにくいって長所もある。
そのかわり、信管が敏感で目標到達前に自爆しちゃうこともあるんだ。あと、酸素は燃えやすいから取り扱いはかなり慎重に行う必要があるね。
実用化できたのは日本だけで、米英からは、「青白き殺人者」「ロング・ランス」って呼ばれて恐れられた。
A:ふぇー、良いとこばっかの兵器ですねぇ……。
K:さて、日本の潜水艦に与えられた役割は「敵主力の漸減」。さっきの酸素魚雷を多数装備した大型の潜水艦がメジャーだった。
ちなみに、他の海軍が使用していた潜水艦は数を揃えやすい小型かつ構造の単純な潜水艦。ドイツのUボートなんかが有名だね。
日本以外の国は、敵国の輸送船を沈めること(通商破壊)を主任務にしていた。どっちが有効だったのかは、歴史が証明しているね。
A:……
K:さて、日本の潜水艦には変り種の潜水艦が何隻かあってね。
なんと小型の飛行機を搭載できるんだ!
A:ひ、飛行機を!? どうやって積んでるんですか!?
K:バラして積み込んでるんだ。
そして、潜水艦「伊二五」に搭載されていた「零式小型水上偵察機」は唯一アメリカ本土を爆撃した軍用機として一部で有名だよ。
○零式小型水上偵察機
小型の水上偵察機。速度は約250q/hと極めて低速で、武装も7.7ミリ機銃が1丁のみと貧弱そのもの。
72s焼夷弾を搭載できるよう改造された機体は、唯一アメリカ本土爆撃に成功した機体である。
しかし、機体強度の点で運用には非常に制約が多かった。
A:アメリカ本土爆撃!? 何気にすんごいことやってません!?
K:人的被害はないけどね。
そんなこんなで、唯一日本だけが実用化していた「潜水艦搭載航空機」。
これはさっきの本土爆撃以外には偵察にだけ使われてたんだけど、ある時ブッ飛んだアイディアが生まれた。
それは、「航続距離の長い潜水艦に攻撃機を搭載して、パナマ運河に魚雷攻撃を行ってぶっ壊しちまえ!」ってアイディア。
それを具現化したのが、「伊四〇〇」型潜水艦と特殊攻撃機「晴嵐(せいらん)」だよ。
○「伊四〇〇」型潜水艦 「伊四〇〇」
艦内に攻撃機を3機搭載でき、理論上では地球を一周できるほどの航続距離を持つ大型の潜水艦。
戦後、アメリカによって徹底的に研究され、ミサイル搭載型潜水艦の原型になったとか。
○愛知 特殊水上攻撃機「晴嵐」 「晴嵐」(プラモ)
「伊四〇〇」に搭載することを前提に設計された攻撃機。主翼・尾翼は折り畳め、フロートも取り外せる。
熟練した作業員なら3分というF1のピット並の速さで発艦準備を完了させられたとか。
しかし、液冷エンジンを使用していたため信頼性には疑問符が付く。
K:パナマ運河を破壊すれば、アメリカの主要造船所がある東海岸から太平洋に出る道が閉ざされる。
非常に効果の高い作戦ではあったんだ。
A:でも、パナマ運河が破壊されたって話、全然聞きませんけど……。
K:そりゃそうだよ。「伊四〇〇」の建造は遅れに遅れ、1944年の年末にようやく完成する。
A:遅っ!!
K:その頃は日本海軍はもう壊滅といっていいほどボロボロになってたからね。
でも、1945年に「伊四〇〇」型には乾坤一擲の大作戦が下される。
それは、アメリカ艦隊の泊地がある「ウルシー環礁」への奇襲攻撃。
A:おおっ! 潜水空母の面目躍如な作戦ですねっ!
K:攻撃予定日は8月17日。「伊四〇〇」をはじめとする潜水艦隊は決死の思いでひっそりと出撃した。
A:へ? 8月17日って……
K:その通り。ウルシー環礁に向かっている途中で終戦となり、奇襲作戦は失敗。
A:………拍子抜け………。結局、「伊四〇〇」と「晴嵐」は真価を発揮できなかったってことですか!?
K:そうだよ。でも、実際に攻撃できたところで、有効な戦果は得られなかったと思うけどね。
A:なんでですか? 完全な奇襲になるんじゃ?
K:潜水艦の最大の武器は、「隠密性」。
でも飛行機を発艦させるとなると、どうしても浮上しなくちゃならない。敵の勢力下で。そんなことしたら、100%見つかっちゃうでしょ?
それは最大の武器を自分の手で捨ててるような行為だよ。
A:で、でも、「晴嵐」が何かしらの……
K:「晴嵐」には液冷エンジンが搭載されてたって書いたよね?
日本の液冷エンジンはホントに信頼性が低くてね。潜水艦の格納庫の中は狭いから、ロクな整備もできないエンジンが稼動すると思う?
それも信頼性が低いエンジンだよ?
A:……かからなそうです……。
K:結局、前回の「航空戦艦」も今回の「潜水空母」も、成功はしなかったってこと。
ナイフの後ろにフォークをつけるようなアイディアは、なかなか成功しないものだよ。
A:航空戦艦と違って、今回の目の付け所はいいと思ったのに……
K:まぁ、「隠密行動と遠距離攻撃手段の融合」ってアイディアは非常に効果的なんだけど、当時の技術じゃ上手く融合できなかったってことだね。
それでも軍艦好きにはとっては非常にそそられるものなんだけど。
おかげで、架空戦記の常連だよ。
……お、今回は早く終わったね。いつもこれぐらいだといいんだけど。
A:それにしても、どうしてシンファクシはF-35とかハリアーとか積んでたのに、リムファクシは無人機しか積んでなかったんでしょうね?
K:またその話に持っていく……。
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